『ジョジョ・ラビット』、鑑賞しました。
高校では世界史をとっていなかったので、正直歴史的背景への理解は乏しいです。なので、ナチスドイツやヒトラーについては、NHKの番組で知った程度のざっくりとした知識しか持ち合わせていません。
それでもこの映画を見たいと思ったのは、子供が主人公である事と、予告のポップさ。第二次世界大戦中のドイツとは思えない作風に、妙な期待感が募りました。戦争が舞台となっている作品は、その多くはシリアスな雰囲気で、悲しい結末を迎えるものが多い印象。決してそんな映画が嫌いなわけではないのですが、「この映画はいつもと違うな」という期待と好奇心を掻き立てるものが、本作の予告にはあったのです。
タイカ・ワイティティ監督がヒトラーに!映画『ジョジョ・ラビット』日本版予告編
ナチスドイツという負の歴史を舞台に、こんなにも軽やかに予告するこの映画。少年らしい少年兵・ジョジョ、コミカルな内なる友達・ヒトラー、むしろ挑戦的な作品だと私は思いました。そのチャレンジスピリッツにどこか高揚感もあったりして…。とにかく、この映画が楽しみで仕方なかった。
以下、感想をつらつらと。
『ジョジョ・ラビット』鑑賞
— まるマッコリ (@makkori04155) 2020年2月10日
軽快な音楽と共に流れるのは
在りし日の悪しき歴史の影
子供故の純粋さが
痛く胸を締め付ける
平和を謳い踊る母の言葉が
怪物と教えられたら少女との交流が
無数の蝶を羽ばたかせる
人を人たらしめるのは
国を愛する心じゃない
人を想い命を想う愛だ#ジョジョラビット pic.twitter.com/rGH0QjzwDy
「正義を信じた少年が、愛によってその正義の定義を改めていく」のが本作。少年漫画のような、王道でハートフルな作品だったと思います。そんな作風だからこそ、ジョジョのナチスへの忠誠心が痛く染みます。子供ながらの純粋さ故に、ヒトラーの事を正義だと、ヒーローだと信じているんですよ。内なる友達としてヒトラーが存在している事からも、彼の忠誠心の高さが分かります。
彼の心が弱ったときに、ヒトラーが鼓舞してくれるのが、また何とも皮肉めいているというか。悪しき歴史として後世で語り継がれている存在も、当時はヒーローの様に崇めていた人達がいたんだなという普遍的な事実を、まざまざと見せつけられます。ジョジョとヒトラーのやりとりは非常にポップで楽しくて、思わず笑ってしまう場面も多々あったのですが、笑う度に心にチクっと何かが刺さる。そんな映画でした。
そんな根っからのナチス支持者であるジョジョが、密かに反ナチスを掲げる母親・ロージーや、母親に匿われていたユダヤ人少女・エルサなど、時代に流されない人々との関わりの中で様々な愛情を学んでいきます。「愛は最強」と謳う本作。ジョジョが人間らしく成長する過程にあったのは、人を愛する事の素晴らしさを説くロージーの愛情だったり、時代に翻弄されながらも自分の意志で強く生きるエルサの姿だったり、ジョジョの周りの人間には、幸運にも「自分らしさ」に溢れた人ばかりでした。
様々な愛情を感じたからこそ、ジョジョの中で揺れが生じるんですよ。それが非常に分かりやすく描かれている。それが、内なる友達ヒトラー。物語が進むにつれて内なるヒトラーが私達が知るようなヒトラーらしくなっていき、ジョジョとの対立が深まっていく。これが非常に良い。曲がりなりにも後世の歴史を知る人間としては、心の中で密かにジョジョに声援を送ってしまうのです。そうだ、ジョジョ。ヒトラーとはそういう人物なのだと。
ヒトラーらしさが高まったという事は、ジョジョの中で「ヒトラーはヒーローではない」という違和感が強まったって事ですし、愛国心ではない、ジョジョ自身の自我が芽生えてきている証拠だと思うんですよ。自我が芽生えていくから、内なるヒトラーとジョジョの意見が合わなくなる。少しずつナチスへの認識に変化があったからこそ、内なるヒトラーは協力的ではなくなる。ジョジョが戸惑う場面も増えていくのですが、迷いながらも「人間らしく」生きていく道を進んでいくのです。これがどんなに希望に満ちていた事か。観客の私としては、非常に喜ばしかったです。
何も知らない少年が、戦争と言う間違った常識の中で人の愛情に触れ、人への愛情を感じ、人の愛情で生かされる。そして、人への愛情を持って人となる。人間賛歌、愛情賛歌とでも言うべき本作は、戦争憎しではない軽快な作風であれど、中にはものすごく力強いメッセージが込められていたと思います。
良かったのはシナリオだけではありません。ポップな作風にあった音楽が非常に秀逸で、聞き心地が良いです。あくまでも1人の少年が大人になっていくお話。戦争と言う舞台の中でも、未来ある若者のひと時を明るく彩る楽曲が使用されていました。さしずめ応援歌のように。
また、街並みやジョジョ達の服装なんかもオシャレで、戦時中である事を忘れさせます。決して華やかなわけではないのだけど、貧しい生活を送っている事は分かるのだけれど、それでも明るい。とにかく細部まで楽しい映像でした。
極めつけは、そのメッセージ性の強いシナリオに負けない役者陣の熱演。個人的に特にお気に入りなのは、1人ながらも子への愛に溢れたロージーを演じるスカーレット・ヨハンソン。彼女の演じる母親無しには、ジョジョという人間の成長譚は成立しなかったでしょう。言葉だけでない、その表情、その仕草、その空気感から、我が子への愛に、未来への希望に満ちている。その姿は、非常に理想的な母親そのものだったと思います。
もちろん、今回が初主演となるジョジョ役のローマン・グリフィン・デイビスの無垢な少年っぷりは物語の重要な核でしたし、エルサ役のトーマシン・マッケンジーの纏う強さには、ジョジョを成長させるに十分な刺激がありました。サム・ロックウェルの演じるクレンツェンドルフ大尉の最後には涙が止まらなかったし、レベル・ウィルソンが演じるミス・ラーム、タイカ・ワイティティが演じるアドルフ・ヒトラーには、知識に乏しい私ですら恐怖してしまう程、悪しき歴史の担い手として表現されていたと思います。
楽しい映画でした。しかし非常にメッセージ性の強い映画でもありました。一見してミスマッチであろう舞台と作風が見事に合致していて、だからこそ非常に感動的でした。新鮮味に溢れているのに、普遍的で重要な事を改めて突き付けてくる本作。人に愛され、人を愛する事から人であり始める事を改めて気づかされ、自分の在り方を顧みるばかりです。
今はただ、良き人達に囲まれていたジョジョが本当に羨ましいですよ(笑)。